旧浦和市の初代の文化財保護課長である青木義脩さんが『さいたま市の歴史と文化を知る本』
(さきたま出版会・2000円税別/048-822-1223)を書き上げた。
「これは集大成ではなく、出発点として、自分の興味のある分野を調べるきっかけにして欲しい」と
いう青木さんに話を聞いた。
青木さんは昭和18年栃木県生まれ。旧浦和市の教育委員会で文化財保護行政にあたり、初代の文化
財保護課長を歴任、浦和市史編さんにも携わった。さいたま市誕生後に退職し、日本考古学協会事務
局長、埼玉県文化財保護審議会委員を務めた。また現在もさいたま市遺跡調査会理事、川口市及び蕨
市文化財保護審議会委員、浦和郷土文化会副会長、さいたま市緑区歴史の会会長を務めている。
昭和57年に『浦和の歴史と文化を知る本』(さきたま出版会)を出版しているが、「さいたま市」と
いう枠で、その歴史と文化を一冊にまとめたものはなかった。長年、公務で地元の文化財保護に携わ
ってきた青木さんは「趣味と実益が一致していて良いですね」と言われることもあったが、常に
「文化財の保護は自分が最前線で、ここで守れなかったらもうこの世からなくなってしまうという
危機感を持って、暗闇を深く潜るように調べてきた。今回はさいたま市という括りの中で見つけた
ものを社会に返そうと、一冊の本にまとめた」と振り返る。
この本は「文化的景観」、「支配・政治・軍事」、「教育・文化」、「産業・交通」、「見沼地域」、
「人」、「事件・災害」、「遺跡と出土遺物」、「寺社」、「建築」、「古美術」、「古文書」、
「石造品」、「霊場」、「民俗」、「自然」の16章、170項目。1項目を見開き2ページに綴って
いる。
これだけ広い分野を一手にまとめることは希だというが、青木さんが文化財保護の仕事を始めた
頃は、一人で全部あたっていたため、不得手では許されず、研修に参加したり、専門家に教わっ
たり、その技を盗んで身につけてきたという。その上で、この本では「自分の解釈を綴っておきた
かった。学者の評価を受け売りしないで、自分なりの分析と評価をしたかった」と、自身の研究の
成果と位置付ける。
一方で「これがさいたま市の歴史の基本でもなければ、集大成でもない。一般の市民にも、自分
なりに興味を持ったことを調べてもらいたい。地域のことに関心をなくすと、災害や無理が出て
くる。歴史や地形、地質を知っておくことで防げる災害や、有効な土地利用もあると思う。もっと
言えば、歴史や文化など過去のことを学ぶことは『これからどう生きるか?』、『どのようなまち
作りをしていくか?』に通じる。だから身近なことから調べていき、多くの人たちが意見をぶつけ
合うことが歴史調査には大切なこと。この本は読んで満足するのではなく、地域の歴史を調べる
きっかけにしてもらいたい。まだまださいたま市にはお宝がたくさんありますよ。それを発見する
興奮、醍醐味、スリルを味わってもらいたい」と語っている。
【さいたま朝日2014年7月号より】
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