洋食セーヌ軒
神吉拓郎
光文社・756円
美味しい料理と共に、人とこころが一瞬でもふれ合う喜び、
すれちがう切なさを描いた17篇の短篇集。
食べものを扱う本は最近多いですが、この本で特に推したいのは
文章にとにかく味がある!
登場人物たちの会話が洒落ているところです。会話中の
「二人」という言葉を「ふたあり」と表すことで、話している
女性のゆったりとした雰囲気が出ていたり、表現を大切にされているな、
と感じます。
各話20ページないのですぐに読めますが、1行ずつ味わいながら読みたい
素敵な本です。もちろん食べものの描写もとっても美味しそうで、
冒頭1行目の「それにしても、見事な虹鱒だった。」は秀逸です。
お腹が空いている時に読んではいけない物語。疲れた時に、
じわっとこころに染み入る物語。
【さいたま朝日2016年5月号掲載】
コメントはありません。